Epsode.2

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「主人の海外出張のお供なの」  俯く少し淋しそうな横顔。薄いピンクのアイシャドウ、グロスで艶めく唇。僕より少し年上、せいぜい大学生くらいかと思っていたから正直驚いた。化粧をしていても隠せないあどけなさ。「人妻」という僕の既成概念からあまりにもかけ離れた目の前の君。自分にとって遥か遠いものだと思っていた存在が、まさかこんなに近くに感じられるなんて。 見知らぬ僕を暴漢から救い出してくれたあの勇気と大胆さ、相反する人懐こさ、無邪気さ──そんな君の魅力は僕の警戒心をあっさりと取り払ってゆく。 「え? 人妻って意外? ふふ……よく言われるの。あの人からも。もっと年相応の化粧をしろとか、しっかりしろとか。他の海外出張組の奥さま方みたいに上品に優雅に落ち着けって」  ため息とともに、熱い吐息が降りかかる。あまりアルコールは強くないらしく、半分も残っているグラスには水滴がびっしりと張り付いている。スパイシーな料理が並ぶテーブルに片肘をついて小さな掌に乗せた君の頬はほんのりと上気していて、僕から見てもその様子は何だか子供っぽくて、それでいながら気だるそうで、危うくてとても放ってはおけない。
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