Epsode.2

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「あのひと毎日忙しいの。一週間のうちに一日か二日帰ってきたらいいほう。あたしも、今でこそこの国に慣れたけど、最初は友達もいなくて淋しかったな……」 「ここに来て何年?」 「ちょうど三年……そろそろ日本に戻れると思うのだけど……」  顔を上げ、じっと僕を見つめる。長いしなやかな髪が熱風でさらりと揺れた。 「帰りたい? 日本に?」 「あたりまえよ。もうこの暑さとか辛い料理とかいい加減うんざり。もともとガラじゃないのよ、海外で生活するなんて。他の奥さま方とは年も離れてるし、お付き合いも堅苦しくて疲れちゃう」  濡れたように艶めくぽってりとした唇をおどけたようにすぼませる。 「ほんとうに、帰りたいなあ、日本に」  ひとことひとこと、噛みしめるようにつぶやく君は、僕から視線をふっと外し、どこか遠く、僕ではない何かをぼんやりと見ている。 「たいてい夜は独りだから退屈しのぎに外をフラフラするの。今日は気が向いてちょっとバザールまで遠出したら……そしたら可愛い日本の男の子が大変危険な目に遭っているじゃない? だからついつい……」 「びっくりした。あんな勇ましい女の人見たのって生まれて初めてかも」  照れ隠しなのか、彼女は舌をぺロリと出すと僕の額を指で弾く。 「こら、オトナをからかうんじゃない」と無邪気に笑いながら。  ああ……微熱がまた僕を包み込む。
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