Epsode.1

3/6
前へ
/21ページ
次へ
 深夜近くというのに徘徊するストリートチルドレン。けたたましい哄笑と気違いじみた喧騒に塗れ、汚濁と猥雑さで混沌とした路地裏にたむろする怪しげな現地人。  バザールの異様な熱気に浮かされ火照る身体。内臓が蒸され燻され、全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出る。鬱陶しいことこのうえない。街の臭気がさらに濃度を増し、息を吸うたびに肺が汚染されてゆくように感じて絶え間なくこみあげるこの嘔吐感を抑えられない。  いっそ吐いちまえば楽になるのか。溢れそうな生唾を飲み込み、口許を押さえてふらふらとメインストリートを外れる。吐いて楽になりたくて、僕の足は自然と人目のつかない路地裏へと吸い寄せられていった。  路地裏はメインストリートとは違って余所者を排除し暴力や売春が密かに横行する、一歩間違えば命のやりとりをしかねない物騒な空間。うかつだと思った時にはもう遅かった。肥えたひとりの男が巨体を揺らして前方から歩いてくる。僕は口内に溜まっていた生唾をごくりと飲みくだす。同時に肉に埋もれた男の眼球が、僕を一瞥して鈍く光ったのを見逃さなかった。狙われた。そう直感して咄嗟に逃げようとした瞬間、男は僕に襲いかかってきた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加