Epsode.2

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「こっちよ」  決して離すまいというように、君は僕の手を引いて素早く歩いてゆく。背筋を伸ばし、大きな歩幅で前をしっかりと見据えてなんの迷いもなく。革のサンダルから覗いた深紅のペディキュア。それがやけに艶めかしい。   連れて行かれたのは洒落たオープンカフェ。深夜近くだというのにほぼ満席状態。現地人、しかも若いカップルばかりで少し面食らう。観光客が皆無のせいか、あの独特の喧騒や雑然とした雰囲気はこれっぽっちも感じられない。 「食事は? 傷の手当てもしたいし、落ち着くまでここで少し休みましょう」  君は見ず知らずの僕に何の警戒心も抱いていないようだった。そりゃそうだろう。思いがけない災難に遭った哀れな子供、この国に不案内な観光客。警戒というよりも憐れみを抱いているに違いない。完全に子供扱いされていることが不満といえば不満だった。 「危ないところを助けてくれてありがとうございました。でももう大丈夫です。それにこれ以上迷惑かけられないし……」 「くすっ。何言ってるの。余計な気遣いしなくていいのよ。危険に遭遇している可愛い少年を助けるのは大人の役目。当然のことをしたまでだわ。迷惑だなんてそんなことこれっぽっちも思ってないのよ。だから安心して。落ちついたらご両親に連絡するわ」  振り向きざまの、まるで咎めるような彼女の鋭い視線。長い睫毛に縁取られた漆黒の瞳はまっすぐに僕を見つめている。その強い輝きに僕の少しばかりの不満はあっという間になし崩しだ。
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