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「だから心配しないで?」
ふいに握っていたペリエが僕の手からするりと落ち、地面に叩きつけられ、あっけなく砕け散った。固まったまま茫然と立ちすくむ。なぜなら君の細くしなやかな指がふいに僕の掌に絡んできたからだ。驚き内心焦る僕。柔らかくしっとりとした指は優しく執拗に僕の指を弄ぶ。全身を伝う甘い痺れのせいで思わずごくりと喉が鳴った。
「さあ、今オーダーするから席につきましょう」
指がするりと離れ、今度は僕の腕を掴んで 悪戯な笑みを浮かべる君はまるで小悪魔だ。僕が落として割ったペリエの片づけをウェイターに頼むと君は僕を再び抱きかかえるようにして空いている席に腰かけた。
「具合はどう?」
君の手が僕の額にそっと触れる。さっきと同じ、柔らかくて温かい小さな掌、指の感触。
「大丈夫……心配かけてすみません」
声が掠れ、急に照れくさくなって思わず顔を逸らす。君はくすっと笑って、おもむろにハンカチを取り出したかと思うと僕の頬を優しく拭い始めた。
「そんなに深く切れているわけではないのね。血も止まっているし」
どうリアクションをしていいのかわからない、されるがままの僕。熱を帯びて瞬時に赤くなった頬を悟られはしないだろうか。
そんな僕の気も知らず、君はもう大丈夫とばかりににっこりと微笑み、すかさずウェイターを呼びとめ現地語で注文を入れる。その動作ひとつひとつが無駄なくきびきびとして美しい。
うっすらと焼けた肌。映える白いレースのキャミソール。ゆるくウェーブのかかった褐色の髪。汗がにじむ、大きく開いたその胸元が僕にとっては強烈に眩しくて刺激が強すぎた。
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