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「猊下の懸命な姿勢が素晴らしいあまり」
参謀は宥めるように恭しく頭を垂れる。
「問答無用だっ!!魔法の学習が必要ならば今ここで貴様を実践練習台にしてくれるわ!!」
イラつきが爆発した魔王猊下は噴火のような激しさで怒鳴るが、参謀は涼しい目元を崩さなかった。
教育係の神官シェルスはそっと嘆息する。猊下は小一時間とおとなしく座っていて下さらない。今も参謀殿の胸ぐらを掴んで怒鳴っておいでだ。
毎回のことながら、猊下の未熟ぶりを嘆く神官は、その長い銀色の睫毛を伏せ、神竜に祈りを捧げる。早く猊下が魔王に相応しい御力をつけるべく怒りを鎮めて机に着いてくださらんことを。
「猊下、貴方の御力を私などに浪費されてはなりませんぞ」
「やかまs―
参謀に向けた魔王の怒鳴り声が突然途切れた。シェルスははっと顔を上げる。参謀も目を見張った。
…猊下がいない。
声だけでなく、その姿も忽然と消え失せてしまった。
魔王猊下のおわした位置には人間が使い魔の召喚に用いる魔法陣が浮かび上がっていた。
魔王の憤怒の声は突如として消え去り、冷たい静けさが部屋を支配する。
「我らが魔王猊下は、どうやら使い魔の程度まで堕ちられたようだ。」
参謀が魔法陣を見下ろしながら静寂を破る。シェルスは崩折れるように陣に手を触れた。
人間に喚び出された魔族が魔界に戻ってこない…。今の魔界は危機に陥っていた。力の弱い者から次々と召喚の魔法陣に消え、半数近くが帰っていない。
「猊下…」
魔王の消えた魔界…
神官が聞かぬであろう主人に呼びかけた。
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