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「お父様は、とうとう売りに出す、と……」
言い掛けたまま、少女は急ぎ足で広間を縫って、ミハイルと呼ばれた青年の立つ階段に近づいていく。
「いえ」
ミハイルは何かを押し殺す様な面持ちで一段ずつ階段を降りる足を進める。
「今日、私が伺ったのはその件ではなく」
青年はそこではたと足を止めた。
少女も階段を二、三段上りかけたところで動きを止める。
琥珀色の灯りが照らし出す少女の面は、長い睫毛に縁取られたエメラルド色の双眸が燦然と輝き、また、薄紅色の花弁(はなびら)じみた唇は物問いたげに微かに開かれ、その僅かな隙から真珠の様な歯並びが覗いていた。
青年は酷く眩しいものでも目にしたように、一瞬釘付けになった目を少女からふっと逸らす。
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