八ツ木賢勝、綾宮クリスと出会う

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季節は春。五月初旬。ゴールデンウィークが終わってしまい憂鬱なまま人々の大半は今までの日常を取り戻していく。 会社に行く人、学校に行く人。ゴールデンウィーク明けともなると年度明けから一ヶ月、少しずつ不慣れな環境に慣れ始めたところにやってくる大型連休はまさしく悪魔の誘いである。 もっと休みたい、遊びたい、自堕落の限りを尽くしたい……そんな叶わぬ思いを抱えながら人々は再び時間と予定に拘束された悲しき日常へ帰っていく。 だが、全ての人がそうではない。 中には変わり種の者もいる。早く仕事がしたいという美しき社畜魂を持った者や部活に精を出す者。 そして―――勉学に励む者。 黒ぶち眼鏡をかけ、先端が丸まった黒髪をし、英語の教科書を熱心に読みながら進む一人の学生。名は八ツ木賢勝(やつぎけんしょう)。 彼もまた日常に帰っていく一人に違いないが、彼だけは少し違う。 ゴールデンウィークという魔の連休への思い入れも未練もなく進むその足が向かうのは、彼にとって新しい学舎。 そう、八ツ木賢勝は転校生なのだ。 ボロボロの教科書は前の学校の物で、まだ支給されていないのもあり制服も学校指定の鞄も前のまま。 そんな賢勝を、新たな学舎にすでに通っている生徒たちは怪訝な顔で見つめてくる。違う制服の生徒が来ていることに不審に思っているのもあるが、それが本当の理由ではない。
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