序章

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『ここ』の日の出は遅い 夜半からの吹雪は嘘のようにおさまり 潮風とともに、かもめの鳴き声が銀色の世界に響き渡る… おだやかな蒼い海へ、白い漁船がいくつも出発する 漁業が盛んなこの集落にも、ひとときの活気が訪れる瞬間だ かもめの声に目を覚ました男は いつの間にか黒い布に包まれた『これ』を抱いて寝ていた事に気づく もう何ヶ月が経っただろう… その身に沁みついた、『あの時』の心は今なお男を強く取り巻いている 男はそっと起き上り寝床の上で、『これ』から黒い布を取り去った
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