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 人間なら、ムキになるのは大体図星を突かれた時だ。今のクラウディも正にそうなのだが、希望通り説明することにした。 「クラウディもさ、寂しかったんだろ? ずっと、一人で」  沈黙が訪れた。ただの沈黙ではない。空気が質量を持ったような、重苦しい沈黙だ。もしクラウディに顔があれば、少なくとも笑ってはいないだろう。 ――寂しくなどはなかった。種族が違えば時間の流れも違うのだ――  クラウディは、ゆっくりとそう言った。少なくともその声の中に激情は感じない。 ――俺にとって百年などお前にとっての一年に過ぎん。そもそも広大な宇宙では、私の旅した千八百万年ですら大した時間ではないのだ―― 「それなら、俺とクラウディが会えたのは、すごく奇跡的な事なんだな。その奇跡に免じて俺のことは見逃して……」 ――ああ、その奇跡に感謝してお前の体を手に入れる日を楽しみにしているよ――  裕之が最後まで言う前にクラウディは言葉を被せてきた。裕之は苦笑いして続けた。 「やっぱり俺はクラウディの獲物なのか。まあ、大人しくするつもりはないけどな……今のうちは」  そう、健康な精神状態を保てるのは今だけ。家や学校で一人になればまた孤独に心は犯されるのだ。 ――ふん、今の俺が全力の状態だと思うなよ。旅の疲れが取れれば、お前は俺に勝てなくなる。その時がお前の最期だ――  真実とも負け惜しみともとれる発言だった。少なくとも、その言葉の意味を正確に図ることができない裕之は、大きく笑顔を作り、言った。 「まあ、少なくとも疲れが取れるまでは話し相手になってくれるんだな。これから、雨と雪の日以外毎日来るんでよろしく!」 ――ああ、せいぜい油断しないことだな。俺が捕食する側だということを忘れるな―― 「はいはい忘れませんよ」  裕之は伸びをしながら上を向いた。綺麗な星空が目に入る。星たちが散りばめられた夜空を月が明るく照らし、この地球まで光を届けている。辺りは月の青白い光を反射して神秘的な色合いに包まれていた。心無しか、昨日までより世界が明るく感じられた。 「いい夜だ」  その言葉に、クラウディも反応した。 ――ああ、これだけ美しい星も珍しい。宇宙の中にも、こんな星は滅多にない―― 「やっぱり、地球ってすごいんだ」
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