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――弱肉強食の星にあるのは血なまぐさい空のみだ。高度な文明が存在する時間は、その星の歴史の中では一瞬に過ぎん。滅びたあとの文明を見てきた数の方がはるかに多い――  それは、裕之も聞いたことがある話だった。たとえ知能を持った生物がほかの星にいても、栄えている期間が被るのは非常に可能性が低いというものだ。 ――知能のある生物のいる星に来たのは三度目だ。特にこの星は自らの技術に振り回されていない、稀有な存在なのだ――  クラウディの言葉には、確かな深さがあった。老人が自らの昔話をするより、更に歴史のある話だ。 「それが、この星を選んだ決め手でもあるのか?」 ――そうだな、この星は、私が一生を終えるのにふさわしい。何かに取り付くまで俺は寿命の無い半生命体のような存在だ。俺は、寿命が欲しい。死に背中を押されながら、意味のある一生を送りたいのだ――  誰もが嫌う死というものを、クラウディは求めていた。おそらくクラウディは、死が有意義な人生を送る上で必要不可欠だということが、身にしみて分かっているのだ。 「クラウディ」 ――何だ―― 「また明日」  そう言って、裕之は宙に浮いている浮いている雲もどきに視線を向けた。相手に際立った変化はない。 ――帰りたいのならさっさと帰れ。そして二度と来るな。俺に力が戻ったら、こちらから行ってやる―― 「そう憎まれ口を叩くなよ。明日になってれば、俺よりいい獲物が見つかるかもしれないだろ。そう考えて俺は時間を稼ぐだけだ」 ――お前よりいい獲物など見つかるものか。俺はお前を追い続ける――  それだけ言い残し、クラウディはあっという間に姿を消した。あの、空気と同化するように姿を透明にするのは、裕之が感心している点だった。姿を消すというのは、人類が求めてきたことの一つだ。あんな希少な能力があるのに、死というほとんどの生物が持っているものが無い。  裕之は改めて思った。宇宙は、自らが理解できる物ではない、と。  理解できないものは、宇宙だけではなかった。世界は、七十億という人間が存在し、構成している。そんな複雑な世界のどこかで、どんなやりとりがあったのか、予想外の出来事が自身にふりかかってくることもある。
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