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クラウディの昔話を聞いた次の日、裕之はいつもどおり学校へ行った。いつもどおりつまらない授業を受け、あっという間に昼休みに入る。裕之は、この時間が嫌いだった。昼休みになれば、皆集団になって昼食をとる。そうすれば、裕之が一人なのは、誰の目にも明らかだ。そうなると、周囲から嘲りの視線を受けているような気がして、なんとも居心地が悪かった。  だから裕之は、四限が終わると誰よりも早く教室を飛び出し、誰もいない体育館の影で食事をしていた。惨めかもしれないが、裕之は周囲の視線を気にしながら食事をするより、こっちのほうがマシだとつくづく感じていた。  だから今日も、裕之は教科書を片付けると、誰よりも早く教室を出た。できるだけ誰もいないうちに目的地に着きたかったのだ。  しかし、今日はいつもと違っていた。  教室を出て、一気に廊下を進む。突き当りを右に曲がってあとは道なりに進むと体育館に着く。しかし、廊下を渡りきる前に、裕之は後ろから声をかけられた。 「ねえ、大井君」  ピタリ、と足が止まった。今の声は確かに「大井君」と言った。ということは、今の声が呼んだのは自分ということだ。  驚きで微かに大きく鼓動する心臓の鼓動を感じながら、裕之はゆっくりと振り返った。五メートルほど先に、人の姿がある。そこにいたのは、一人の女子生徒だった。身長は裕之と同じくらいだからおそらく百六十センチくらい。長い黒髪を腰まで伸ばしている。裕之は、この生徒を知っていた。といっても、名前は知らない。高校に入学して、同じクラスになったことはないからだ。しかし、下校するときにテニスコートの横を通るとき、彼女の姿を見たことが何度かあった。女子の選手ではない。おそらく、男子テニス部のマネージャーだろう。この学校の男子テニス部は強豪として知られていたが、その分練習もハードで、現部員は六人しかいないと聞いたことがある。その数少ない部員を影から支えているのが、目の前の生徒だ。 「何か用か?」  僅かに声が高くなった。学校で誰かと話すのは、授業中以外ではかなり久しぶりだった。俺の様子を見て、女子生徒は少しだけ微笑んだ。 「ごめんね。本当はお昼にしたいのかもしれないけど、少しだけ話を聞いて欲しいんだ」  それだけ言って、彼女は踵を返した。 「こっちへ来て」
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