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 嗚咽を堪えながら何とか話しきった。胸の奥に溜まった熱い感情は、涙を次から次へと溢れさせた。  しばらく広場には、裕之が鼻をすする音だけが響いた。虫たちですら、声を潜め静寂を保っていた。やがて、クラウディが声を出した。 ――お前はあらゆる才能に恵まれていると言ったな。だが、それでも才能を開花させるためにあらゆる努力は必要だ――  その声から感情を読み取ることは出来なかった。裕之は、黙って言葉の続きを待つ。 ――お前は人生をかけてきたテニスをあっさりと捨てたのだ。それは人生を捨てるに等しい。全てを失って当然だ――  それを聞いて、裕之の中の、眠っていた記憶が蘇ってくる。それは、小学生の時の、テニスがどうしようもなく楽しかった時の記憶だ。 ――もう一度テニスを始めてみろ。何かが変わるはずだ――  力強い声だった。それは、裕之の背中を押すには十分だった。 「ありがとう、クラウディ」  右腕で涙を拭きながら、裕之は言った。何年間も裕之の心を占めていた冷たいものは、いつの間にか消えていた。 ――構わん。俺がお前を乗っ取った時、過ごしやすい環境が整っていたほうが理想的だからな――  見た目はいつもと変わらなかったが、その声はどこか笑っている気がした。 ――行け……道が見えたのなら、突き進むべきだ――  裕之は頷いた。手の震えは、いつの間にか止まっていた。 「ああ、ありがとう」  裕之は駆け出した。体は軽く、月明かりで照らされているだけの世界が、やけに明るく感じられた。全身を血液が強く廻り、生きていると強く実感した。  次の日、裕之は午後の三時過ぎに学校に着いた。丁度授業を終えた生徒が学校から出てくる時間だ。こんな時間に来たのは、もちろん授業を受けるためではない。  校門を過ぎると、側方にテニスコートが表れる。男子はいない。学校の周りを走っているのだろうか。裕之は下校する人の波をくぐり抜け、部室棟を回り込むとテニスコートに向かった。  コートの後ろにあるベンチにボールの入ったカゴが置いてある。裕之はラケットバッグを置くと、ベンチに腰掛けテニスシューズを履いた。そして今度はラケットを取り出し、カゴからボールを三つ取りジャージのポケットに入れる。ラケットバッグも、シューズも、ラケットもジャージも、全て学校をサボって買ってきたものだ。高価なものだが、生活費は余っているため問題はなかった。
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