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全国大会、それが、二人の目標だった。明日の県大会で勝ち上がった者だけが、その権利を得ることができる。そう考えると、胸の中に熱いものがこみ上げてくる。
夢への想いを込めて、裕之は大きくラケットを振った。
帰宅したあと、裕之はいつもの広場へ向かっていた。部活を再開したあともほとんど欠かさずクラウディに会いに行っている。旅の疲れはまだ取れないのかと聞いたら、まだしばらくかかりそうだと言っていた。さらに、回復次第襲ってやるから覚悟しておけとも付け加えていた。
桜の花も散り、新緑が山を覆う。これから梅雨を経て、命が最も活動する時間がやってくる。その時、自分はインターハイの舞台に立っているはずだ。裕之は、夢への迷いは一切なかった。
ゆるい山道を登ると、すぐに広場が見えてくる。今夜は早く帰りたい。そのために、少し早めにクラウディに会おうかな。そう思い、少しだけ駆け出した。
その時だった。突如、車のライトが見えてきた。大きなエンジン音を出し、凄まじいスピードで走ってくる。ライトに視界が奪われる。道は狭い。横によけないと……。
裕之が動く前に、車は裕之の体を捉え、裕之の体は大きく宙を舞った。
あの車が何なのかはわからない。暴走車か、ただスピードを出しすぎただけか……。裕之の体は中を舞った後、道路の地面に大きく叩きつけられた。全身から出血し、痛みで体が動かせない。満天の星空が視界を覆う。
俺は、死ぬのか?
裕之の問いに、答えるものはない。夜の山にわざわざ人が来るというのも考えにくい。おそらく助けはない。そして、このままでは自分の体は三十分と持たないだろう。
死んだら、明日はどうなる。裕之は考えた。
自分が死んだら、そこで何もかもが終わってしまう。それは……嫌だ。
「……ぜ……んこく…………へ……」
裕之は手を伸ばした。恐ろしい程の激痛が全身を襲う。どうなってもいい。だから、夢を終わらせないでくれ。その一心で、裕之は星に向かい手を伸ばした。
すると、奇妙なことが起こった。星空が突然かすみ始めたのだ。そこに白い霧のようなものが発生し、雲のようにはっきりとした色を持ち始める。
「……クラウ……ディ……」
――なんたることだ……俺の物になる体を……こんな――
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