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ごめんな、と言おうとしたが、声が出なかった。代わりに、ありったけの力でクラウディに懇願してみる。もしかしたら、クラウディならなんとかなるかもしれない。その一心だった。
「……たす……けて……くれ」
――無理だな――
間をおかずに帰ってきた返事は、残酷なものだった。裕之の心の中に、絶望が広がっていく。
「…………そん……な」
最後の方は声がかすれてほとんど言えなかった。裕之は、自分の終わりを感じた。だんだんと意識が遠ざかっていく。ここで終わるのか……その想いには、無念しかなかった。だが、次にクラウディが発した言葉に、裕之の意識は覚醒した。
――一日程度ならどうにかできるが、それ以上は持たない。諦めろ――
一日……。その言葉が、今の裕之には救いの言葉に感じた。明日、試合ができる。
「……頼む……クラウディ……俺を」
その言葉に何かを感じたのか、クラウディはあっさりと言った。
――ふん、まあいいだろう。最後に、面白いものを見せてみろ――
そう言ってクラウディの姿は消えた。直後、これまで見たことのない強烈な光が全身を包む。裕之はとっさに目を閉じた。
光が消えたとき、全身の痛みは無くなっていた。起き上がって体を確認すると、服すら傷ついていない。道路に広がっていたはずの血もなかった。
一日、とクラウディは言った。明日の大会で勝っても、裕之はインターハイの舞台に立つことができない。しかし、それでも構わなかった。明日の試合に勝てれば良かったのだ。
裕之は山道を降りていった。明日、自分の人生で一番の力を出すんだ。そう誓った。
燃えるような太陽の日だった。テニスコートに太陽の光は容赦なく降り注ぎ、選手たちの体力を奪っていく。それは、裕之も例外ではなかった。
「大丈夫か?裕之」
悠斗が心配そうに声をかけてくるが、裕之は「大丈夫だ」とひと言でそれに応じた。
裕之と悠斗は、インターハイを賭けた試合まで来ていた。この試合に勝てばインターハイの切符が得られる。しかし、相手も強豪だった。
試合は第三ゲームまで進み、現在タイブレークの五対六。相手のマッチポイントだった。しかし、裕之たちも一ポイントでデュースに追いつく。運命を分けるポイントだった。
「大丈夫、いつも通り行こう」
裕之の言葉に、悠斗も頷く。右手の拳同士をぶつけると、互いのポジションに戻った。
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