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 相手がサーブの構えを取る。騒がしかった会場が水をうったようにシンと静まり返った。  一瞬の沈黙。そして、相手がサーブを放った。強力なサーブがコートに叩きつけられるが、悠斗が渾身のショットを打ち、そのまま前に出る。相手の返してきたゆるいボールを、裕之は全力で叩き返す。相手はなんとか追いつくが、帰ってきた球は先ほどよりも更に力がない。  ここだ!  裕之は全力で振りかぶった。跳ねたボールを、相手のコートに叩き込んでやる!  しかし、ボールはバウンドした瞬間、自分の方に向かって飛んできた。裕之は完全に居を突かれる。相手は、崩された体勢からボールにスピンをかけていたのだ。咄嗟に調整し、ラケットを振る。 「おおお……おおおお」  勢いよく弾き飛ばされたボールはネットを越えた。しかし、僅かに端に逸れ……サイドラインを割った。 「アウト!」  主審の声に対戦相手が叫び声をあげ崩れ落ちた。歓声が爆発する。裕之はラケットを垂らし、呆然と立ち尽くした。  終わった……のか……?  しかし、その問に答えるものはない。呆然としたまま挨拶を済ませ、ベンチに戻る。 「……すまない」  ふと、そんな声が聞こえてきた。横を見ると、悠斗は泣いていた。 「すまない……もう少しだったのに」 「何言ってんだよ。最後にミスしたのは俺だぞ。俺が……」 「大学では、インカレに行こう」  悠斗は、泣きながら言った。 「……え」 「一緒の大学に行って、またテニスをやろう。今度こそ、全国に行くんだ」  裕之は想像した。大学でテニスを続け、全国行きを決める。悠斗と共にガッツポーズをとる。  ああ、そう出来たらいいな。  心の中でそう言った。しかし、自分にはその未来はない。裕之は、今日の夜に死ぬのだ。  急に、涙が溢れてきた。まだ、テニスをしていたい。そう、強く思った。自分にはない未来を、強く渇望した。しかし、それは叶わないのだ。しかし、悠斗だけは……。  裕之は、覚悟を決めた。
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