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満天の星空の下で小さく息を吐いた。
小さな山の中の直径十メートルほどの広場。建物の光はなく星を眺めるのに都合がいい。ポツリポツリと置かれた灯りは自分から離れた場所にあり、夜の闇が全身を包む。こうしていると、まるで自分がこの広大な天体の一部になったかのような錯覚に陥るが、辺りに聞こえる虫の鳴き声や汗で湿った服のせいで現実に引き止められる。
夏休み最終日、時間は夜中の十時。
大井裕之は、高校二年の夏を、毎晩ここで過ごしていた。本来なら遊び呆ける、もしくは部活に励むはずの夏休みも、裕之にとって関係ない。なぜなら、裕之に友人はいないのだ。
部活にも所属しておらず、どうしようもなく時間の余っている裕之は、夜中になるとここを訪れ、星を眺めている。それは、大きな星空を見て己の惨めさを笑い飛ばせるようにか、闇と同化して孤独に慣れるためか、はたまた他の理由かは自分でもわからない。しかし夜になると、自然と足はこの広場へ向かっていた。
名前もわからない星たちを眺め、少しだけ満たされた気分になる。
「帰るか」
呟くと、広場の出口に向かって歩き出す。明日から学校が始まると思うと足取りも重くなる。落ちた気分と同調して小さくため息も出た。しかし、そうしたところで何か変化があるわけでもない。目の前に迫る木の門をくぐり、現実に戻ろうとした。しかしその時、裕之を驚愕させることが起こった。
――帰る……どこに?――
頭の中に声が響いた。あまりに鮮明で、思わず周りを見回し人がいないか確認するが、こんな時間にこんな場所で、人が居るはずがない。それでも、幻聴として無視するには余りにもはっきりとした声だった。
――どこを見てる?――
再び頭の中に声が聞こえる。何となく声が聞こえてきたような気がした方向を振り向くが、月の光に淡く照らされた木が公園の反対側に見えるだけだ。混乱し、公園の中心に戻りながら思わず頭の中に聞こえる声に語りかける。
「おい、どこにいる。お前は誰だ」
すると今度は、クスクスという笑い声のようなものが頭に響く。
――そうか、この姿では見れないのか。しょうがない――
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