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広場に来るのもこれが最後かと思うと、何だか感慨深かった。最後の夜にふさわしい、いい月の夜だった。
――結果はどうだった、裕之――
声が聞こえたかと思うと、目の前にクラウディが姿を現した。今では裕之の恩人なのだ。
「負けたよ……全国に……行けなかった」
――そうか――
クラウディはそれ以上何も言わなかった。だから裕之は、自分から切り出すことにした。
「クラウディ、俺の血をやる」
白い塊が微かに動いた。クラウディが驚いたときは、こんな反応をとるのだ。
「ただし、お願いがある」
――なんだと――
裕之はまっすぐクラウディを見た。これはただのわがままだ。だが、この願いを叶えて欲しかった。
「クラウディ、大井裕之として、テニスを続けて欲しい。そして、悠斗を、今度こそ全国に連れて行って欲しいんだ」
――お前……わかっているのか。それは、悠斗とか言う奴を、一生騙し続けるってことだぞ――
「構わない」
裕之は間をおかず答えた。これが、裕之の出した結論だった。悠斗のためを思うと、これができる、最善の策なのだ。
クラウディはしばらく黙っていた。しかし、やがてゆっくりと答えた。
――よかろう、お前の意志を継いでやる――
クラウディが近づいてきた。眼前まで迫ると、裕之は最期の言葉を口にした。
「ありがとう。この先を、頼む」
――ああ、さらばだ裕之――
裕之は夜空を見上げた。本当に、美しい空だった。
クラウディが胸に接触するのを感じた。途端に意識が遠くなる。
なんだ、こんなに早く意識が飛ぶのなら、簡単に俺の体を乗っ取れたじゃないか。
裕之はそう思った。そして、それを最後に裕之の意識は本当に途切れた。
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