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 これも事実だった。孤独な生活の中で、裕之は感情が欠けつつあった。孤独に浸り続けた裕之は、死への恐怖心は薄れていた。  会話が途切れた。広場を一陣の風が通り抜け、木々の葉を揺らす。次に頭の中に声が響いたとき、その中に僅かな喜びの色を、裕之は感じ取った。  ――なるほど……では、ここで俺がお前に襲いかかっても、お前は抵抗しないんだな?――  無感情な少年という感じだった声が微かに色を帯びるのを感じた。言っている内容と相合わさって、直感が身の危険を知らせる。しかし、裕之は動かなかった。目の前の相手の言ったとおり、襲われて抵抗する気もさらさらなかった。 「殺されても構わないさ。ただ、そうされる理由だけ教えて欲しい。特に意味があるんじゃなくて、単純な好奇心」  おそらく、これまで宇宙人の明確な目撃情報が無いのは、宇宙人と会った人間は皆殺されているからなのだろう。それなら、何故宇宙人は人間を殺すのか。死ぬ寸前の裕之に浮かんだ、一つの疑問だった。  目の前の白い物体は何も言わずにふわふわ浮いていたが、やがて頭の中に答えが投げられた。 ――死ぬ人間になら教えても問題ないだろう。いいか、見ての通り俺には形がない。丁度この世界の雲によく似ているだろう。もっとも、形がないだけであって触れることはできるがな……。しかしこれでは何もすることはできない。ただただ、時間を消費するだけの無益な存在だ。だから俺たちは、生物の体を乗っ取る方法を編み出した――  ここで一旦声は途切れた。宇宙の話なだけあって、なかなか現実味のない言葉が飛び出してくる。しかし、そこに逐一触れていたら話は一向に進まないだろう。俺は黙って話の先を促した。 ――ただ時間を消費し、宇宙と運命を共にするだけだった俺たちも、他の生物の体を乗っ取れば、意味のある時間を送ることができる。こんな素晴らしいことはない。俺たちは自分の星を離れ、体を探す旅に出た。乗っ取るための、獲物を探したのだ。もう、千八百万年も前の話だ――  最後の言葉に、流石に裕之も驚愕した。 「千……八百万年前……?」 ――そうだ。俺の星がここから九百万光年離れていることは伝えたはずだ。俺のような一生命体に、光より早く移動する能力があるものか――
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