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 宇宙人は皆光より早く移動する技術を持っていると考えていたのは、SF映画の観すぎだったのかもしれない。光より早く移動する宇宙船ならあるかもしれないが、流石に生身でその速度を実現するのは不可能なのだろう。 ――気の遠くなるような年月だったが、俺は諦めなかった。どこかに必ず、最高の獲物がいると信じていたからな。そして、今日ついに見つけたのだ。俺の、獲物を――  声に狂気が帯びた。目の前の雲に目はないのに、まるで飢えた獣に睨まれているかのような威圧感を感じた。 「……なるほど」  裕之は状況を理解した。しかし、裕之の心には寸分の動揺もない。 「つまり俺が、お前のお目にかかった獲物ってわけか」 ――そうだ、お前は俺が千八百万年探し続けた獲物だ。全く、この忌まわしい体と別れられるのは嬉しい限りだ―― 「どうやって俺の体を乗っ取るんだ? お前の体も分子で出来ているのなら、幽霊のようにとり憑くことはできないだろ」  体を乗っ取るなんて行為、説明されても理解されないかもしれない。しかし、死ぬ前に少しだけ賢くなるのもいいだろう。そう思い、裕之は質問を続けた。しかし、雲は存外おしゃべりのようだ。裕之の問いに、雲は回答を与えてくれた。 ――血だ。血を吸い取るのだ。そうすれば、俺たちの体内でお前の体を構成する細胞の構造を理解し、それに化ける。干からびた死体が残るが……まあ、それはどうとでもなる――  どうやら乗っ取るというより、なりすますに近いらしい。大きな蚊と考えていいのだろうか。裕之が考えていると、雲はさらに続けた。 ――さらに言えば、俺がお前を選んだのも血が良かったからだ。お前の血はすばらしいぞ。これが俺のものになると思うと興奮が止まん―― 「俺の血がすばらしいって……何を基準に言っているんだ」  裕之の血液型はA型で、血液検査の結果も標準だ。それとも、この場合のすばらしいは、一般的な考えとは違うのだろうか。 ――基準だと? それは俺たちにしかわからないものだ。強いて言うなら可能性や才能を秘めた血とでも言おうか――  やはり、裕之の考えとは違う基準らしかった。しかし、ここで更に疑問が浮上する。そして裕之は、それを口にした。 「才能って、俺そんなにすごい人間じゃないぞ。少なくとも、俺よりすごいやつはたくさんいる」
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