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 裕之の両親は裕之がまだ若い頃に離婚し、裕之は母親についていった。しかし、母親は夜の水仕事を生業としているため、家を出ると夜遅くまで帰ってこない。たまに朝話すこともあったが、最近はどこかに男でも作ったのか、めっきり家に帰る日は減っていた。その代わり、帰ってきたときは生活費として十万を超える金を裕之に押し付けていくのだ。  居間に入るとテレビを付け、ソファに腰掛けた。テレビから芸人の大きな声が響いてくるが、裕之の意識はそこにはない。天井を眺めながら、さっきまでの夢のような出来事を思い返す。  まさか自分が宇宙人と知り合いになる日が来るとは、裕之は思ってもいなかった。更に、その立場が狙う側と狙われる側というのがまた奇妙な感覚だ。数時間前まで、裕之は死ぬのが怖くなかった。むしろ、この孤独が終わるのなら歓迎する。そう考えてすらいた。事実、最初にクラウディと会った時、裕之は抵抗しなかった。しかし、クラウディと話しているうちに、考えが変わってきた。生きるのも悪くないと思ってしまった。死にたくないと思った。それはクラウディと話したからなのか、それとも単に話せれば誰でも良かったのか。どちらにしろ、会話をしただけで裕之の心は大分明るくなっていた。自分の存在が受け入れってもらえるのが嬉しかった。  しかし、現実は甘いものではない。新学期に学校に登校した裕之に、冷たい現実は容赦なく押し寄せた。  夏休みという長期の休みが終わり、皆楽しそうに会話に花を咲かせていた。旅行に行ったという話や、部活の大会の話などが耳に入ってくる。しかし、この教室の中で俺だけ、誰とも話さず、一人携帯をいじっていた。入学直後、友人作りに励まず、誰とも接しなかった結果だ。正確には話せなかったのだが、どちらにせよ行動を起こさなかったという事実は変わらない。そして、ここで行動を起こさないというのも、入学当時から変わっていない俺の弱さだった。  始業式が終わるとすぐに学校を出た。一人でいると、まるで自分が存在しないのではないかという錯覚に陥る。
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