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無関心でいられることとは、壁も屋根も無い場所で立ち尽くしているのと同じだと、裕之は考える。雨風に打たれ、だんだんと冷たくなってきて、どうしようもない孤独と、虚無感に襲われ、最後は全てが麻痺するのだ。昨日裕之は死を恐れなかった。全く異常だと裕之も思う。しかし、人間は、孤独に耐えられるように作られてはいないのだ。
夜になると、裕之の足は夏休みを過ごしたあの広場へ向かっていた。裕之の命を狙う相手と遭遇した場所でもあるが、少なくとも昨日の段階では殺される心配はないと判断した。いつの間にか鳴き始めた鈴虫の声を聞きながら緩やかな坂を歩く。道には一定間隔で街灯が置かれているため、夜中でも何の心配もなく歩くことができる。裕之にとってはありがたいことだ。
広場の門をくぐると、そこには二日前までの静寂が広がっていた。昨日ひと騒ぎをした相手の姿はない。
ほかの星に、違う獲物を探しに行ったのかな?
そう考えた時だった。裕之の三メートル先、昨日と全く同じように急に裕之の頭の高さくらいの空間が歪み始めた。やがてそこに白い湯気のようなものが発生し、一メートルほどの白い塊が出来上がった。
――待っていたぞ。大井裕之――
「よう、クラウディ。お前、昨日からずっとここにいたの?」
――その呼び方を認めた覚えはないぞ。……ふん、ここから動いて、獲物にする価値もない人間どもの中を移動するのに、何の魅力も感じん。俺はな、裕之、お前が手に入ればいいんだ――
昨日に引き続き、熱心なお誘いを受けるが、裕之は首を横に振る。
「いや、学校にいたときはまたイヤになりかけたけどな、こうして誰かと話してると、何だか落ち着くんだ」
素直な気持ちだった。こんな言葉が口をついて出たのは、もっと会話をしたいという欲求が、裕之のなかで抑え難いものになっていたからだ。孤独から解放されるのは、どうしようもなく嬉しかった。
――落ち着くだと? それなら、俺はお前の前に姿を現すのをやめよう。そうすれば、お前はまた抵抗しなくなる――
「いや、それは無理だろ」
クラウディの、どこか意地の悪さを漂わせた声と、裕之のあっけらかんとした声がどうにも不釣り合いだった。しかし、裕之は知っていた。クラウディの言葉は、絶対に実行できないことを。裕之に即答されて、クラウディは若干戸惑ったようだった。
――無理……だと? なぜそうと言い切れる。根拠を示せ――
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