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「こ、子供って……うぅ、そんなこと聞かれても……」
俯き、白い頬を赤く染める美晴。ちらりと少年を上目遣いに見て、
「その時になってみないと分からない、けど、今の私は……まだ、一緒に居たい。赤ちゃんには、悪いんだけど」
「まだ?」
「あ、えっと、そういうことじゃなくてっ……!」
ともあれ。
美晴はそう望むのかと、何故だか安心したような気持ちになった。勿論彼女が言った通り、実際はその時になってみないと分からないのだろう。それでも、今の彼女の思いが聞けて良かった。
「……逆に聞くけど、高坂くんなら、どうするの? 高坂くんの場合は、奥さんか子供、ってことになるんだろうけど」
「んっ、分からん。人の親になったんだって実感してるんだったら子供を選ぶのかもしれないし、それでもまだ好きな人と一緒に居たいって思うなら、奥さんを選ぶのかもしれない――なあ、美晴」
覚悟を決める。
頬に当てられていた美晴の手を取り、
「俺と結婚しよう」
「は、はいぃ……?」
間違えた。
「訂正。俺と――付き合ってください。俺、美晴のこと、好きだから」
今日の予定が、前倒しになったけれど。
少年は、想いを告げた。
自分の顔が紅潮してるのが分かる。心臓がどくんどくんと早鐘を打ち、嫌な汗が流れて、彼女の手を握る自分の手が震えていることも。雰囲気も何もありゃしない、それでも出かけた時に気取って告白するよりも、こんな風に――日常の延長のような、そんな何気ない景色の中での方が、自分たちらしいと思えたのだ。何よりも、口が勝手に動いていた。
「つ、つき、付き合ってって……きょ、今日の、こと……?」
「じゃねぇよ。いや、今日もだけどさ、明日も、明後日も、それから先ずっと……俺と、付き合って欲しい。美晴と一緒に居たい」
「う、あっ、うぅ……」
また、美晴が俯いた。覗く耳は真っ赤に染まっていて、微かに見える頬も、やはり夕焼けの色をしていた。きゅっと閉じられた小さな手は震え、開かれ、また閉じる。まるで彼女の心情を表現しようとしているようだった。
そのまま、少し間が空いた。お互いに無言のまま向き合って、負けじと顔を真っ赤に染め合って、ともすれば涙でも滲んできそうな顔をして――
「……私も、高坂くんのこと、好き。一緒に、居たい」
消え入りそうな声で……待ち望んでいた言葉が、音となって彼の耳朶を震わせた。
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