全ては虚ろへ

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 胸の奥が不思議と温かくなる。顔が自然とほころび、恥ずかしさなんてものはどこかに消え、穏やかな気持ちに満たされた。  美晴も同じなのか、どこか落ち着きを感じさせる笑顔を浮かべて、真っ直ぐにこちらを見つめている。 「これからも、よろしくお願いします」 「何だよ改まって。これまで通りだ――肩書きが変わっただけで、他は何も変わりゃしないぞ」 「ううん、そんなことないよ。だって、私、ようやく高坂くんと本当の意味で一緒に並んで歩けるような気がする」 「そっか、そりゃ良かった。じゃあ、まあ、俺からも。これからもよろしくな、美晴」  いつも通りの雰囲気で、いつも通りの足並みで。  それでも想いを告げたことにより、二人の距離がさらに縮まったような気がした。これまでは並び歩いていただけだったのが、まるで手を繋いで歩き出したような。ぎゅっと、お互いに握りしめる手の平の温かさを感じた。 「それじゃ、行くか」  彼女の手を取ったまま、立ち上がる。  首を傾げる美晴に笑いかけ、 「今日はこれから、一緒に出かけるんだろ?」 「あっ……うん」  すっかり忘れていた、とばかりに彼女は恥ずかしそうな笑みを浮かべた。そんな美晴に苦笑を向けつつも、少年はその手を引いて歩き始める。 「あ、あの、手……」 「んっ、気にすんな。ちょっとさ、こうして居たいんだよ。ダメか?」 「ダメじゃ、ないけど……ううん、何でもない。私も、こうしてたい」  きゅっと、美晴の手に力が込められる。  夢で見たことを真に受けているわけではないけれど。こうして手を繋ぎ、手元に引き寄せ、横並びに足並みを揃えていれば、あんな未来が訪れるべくもない。それに何より、だから言葉の通り、ただこうして居たかった。彼女を傍で感じ、温もりに触れていたい。  二人は歩く。  廊下を抜け校庭を出て、いくつものイルミネーションに彩られた街へと。そして、きっと幸福が待ち受けているであろう、共にある未来へと向かって。  いつかこの手の間に、もう一つの大切なものを得られる日が訪れますように――  少年は今日という聖なる日に、そう願った。
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