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街のイルミネーションに照らされた白い雪の上を、いくつもの赤い斑点が彩った。
横から叩きつけられたようなその雫は道路に降り積もった新雪を僅かに溶かし、沈ませ、ある一方向へとその量を増やしている。否――ある一方向から、徐々に少なくなっているというべきだろうか。
辿る。
徐々に赤が増えていく、その方向へと視線を向けていく。
視線の主、まだまだ垢抜けないような、それでも二十代の半ばには届いていそうな青年は信じられないものでも目の当たりにしたかのように目を見開き、瞬きし、うわ言のように呟いた。
「……美晴……?」
口にしたのは、その赤を撒き散らした正体――彼の妻である、女性の名前だった。
道路に力なく横たわる肢体。真っ白な雪を染め上げ、そして未だに止めどなく溢れ続ける液体――血。
何もかもが、彼には理解できなかった。たった今、一瞬前まで並び連なり歩みを共にしていた彼女が……何故、血まみれで倒れているのだろうか。どうして自分だけ、あたかも何事もなかったかのように、立っているのだろうか。
分からない、分からない、分からない――
救急車のサイレンが、どこからともなく聞こえてきた。立ち尽くす彼は、歩む途中のような不自然な格好のまま、ただただ視線だけは愛おしい女性に向けていた。
今日は、どのような日だっただろう――確か、そう、クリスマス・イヴ。十二月二十四日。聖夜。みんなが笑顔になれる日。大切な人と過ごす、大切な一日。
……そのはずなのに。
今、目の前にある光景は何だろう。
真っ赤に染まった体を雪の上に横たえて、ぴくりとも動かない妻の姿。そしてそのお腹には、彼と彼女との愛の証が宿っていた。
視界が暗転しそうになり、ぐらりと体を揺らし、青年は膝をつく。周囲で飛び交う悲鳴のような声や、野次馬の群れが全く意識の内に入らない。
「み、はる……?」
溢れ出た声には、先程と同じような疑問の音と、それ以上の驚愕。
少しずつ、本当に少しずつ状況を理解し始めてしまった青年は、そして――
意識を暗がりへと、落とし込む。
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