#01 始まり

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『おかえりなさいませ、御主人様』 今日も私、梅宮杏の日常は始まる。 私は今年20歳の何処にでもいるただのフリーター。 今はメイド喫茶で働きながら、声優を目指している。 そんな私の両親は私が8歳の時に母親の不倫が原因で離婚。 一時は母親の元へ行ったものの、義父との馬が合わず父親の元へ。 父親の元へ行くと、父親も父親で私の為に再婚を考えていた。 今思えば、再婚なんてしてほしくないって思っていたけどその時の私はそんなことが言えるわけもなく、 「お父さんがしたいならすればいいんじゃないかな。」 なんて良い子ぶっていた。 嫌われるのが怖かったんだと思う。 義父のせいで人に嫌われる事が極端に苦手になっていた。 テレビも見せてもらえない。 寝かせて貰えない。 遊びにつれてって貰えない… それは全部義父に嫌われたからだと思っていた私。 だからこそ人に嫌われることは他の人が思う以上に嫌だった。 父親が再婚して義母と3人で暮らしはじめて数ヶ月。 11歳になっていた私は義母の事をなかなか「お母さん」と呼べず「お姉さん」と呼んでいた。 だからその日も相も変わらず「お姉さん」と呼ぶと義母は困った顔をしながら私に言った。 「お母さんって呼んでほしい。 産まれてくる子までお姉さんって呼ばれたくないから。」 「……はい。…お母さん」 その時初めて義母のお腹の中に子供が居ることを知った。 それでも嫌われることが嫌な私は嫌々ながら義母の言うことを聞いた。 ただその中で生まれてくる疑問。 義母、父親、産まれてくる子。 それで1つの家庭の姿。 私の居場所は何処なんだろう。 私は必要とされない邪魔者。 皮肉な考え方だと思う人もいるのかもしれない。 でもその時の私はそんな考え方しか出来なかった。 だからこそすぐに家を出たかった。 そんな思いを抱いた私は高校卒業後。 声優になるために養成所に通いたいから。 とそれを理由に実家を後にした。
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