第一章

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一呼吸置いて、勢いよく引き戸を開ける。がらがらと騒々しい音を立てて、若月の視界には綺麗に並べられた机が広がった。 室内は、廊下と同様に閑散としていた。しんとしている。 綺麗に並べられているにも関わらず、どの机の上もプリントやらノートやらで散らかっていて、このままでは何の作業も出来ないように思えた。厚手のカーテンは目一杯に開けられていたが、時間が時間なだけに、それでもまだ室内は薄暗いままだった。 そこに、小さな背中だけがぽつんと一つ存在していた。若月の心臓が、期待と不安でどくんと弾む。その一つの小さな背中だけで、その他には誰も居ない。情報通りだ。「ありがとう」囁くように、小さく高松に感謝した。 彼女は机に向かっており、若月の方向からは背中しか見えないので、何をしているのか正確には解りかねるのだが、彼女はペンを片手に忙しく何かをしていた。頭には大きなヘッドホンが装着されており、そこから流れてくる曲に合わせてか、首が上下に小さく揺れている。その白くて華奢な首は、ゆらゆらと魅惑の色を帯びて、若月の網膜へと映った。音楽に気を取られ、彼女はまだ若月の存在にはまだ気付いていないようだった。 ごくりと生唾を飲み込む。よしと決心し、両の頬を両の手で二度、ぱんぱんと叩く。気合いを入れるためだ。――僕は今日、彼女に告白する。 「駄目なんだ。想ってるだけじゃ」 不意に、友人の言葉を思い出した。数年前、そのときも片思いをしていた若月に対して、彼女持ちの友人がえらく上からものを言うように、喋々と話した言葉だった。それを数年振りに、それも不意に思い出したのだ。 若月の気持ちは固まった。 そうだ、想っているだけでは、想いは伝わらない――。
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