羊男

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その本屋の店主には、羊の角が生えていた。 客が入らず、暇を持て余しているのだろう。 けだるそうに本のページをめくっているが、あまり楽しそうには見えない。 ムスッとした仏頂面で読んでいるからだろう。 それに、この羊男の仏頂面といったら「具合悪い?」「怒ってる?」などと聞きたくなるほどのものだった。 きっと、それだから客も入らないのだ。 羊男は急に読んでいた本を閉じると、 「ヒマ…」 とぽつり呟いた。 それはそうだ。どう見たって開店休業のような状況。 閑古鳥が鳴く声がする。 羊男はぎゅっと眉根を寄せて、あくびをした。 そのとたん、げほげほと盛大に咳き込む。 何事かと思うほど咳き込んで、ようやく男は顔を上げた。 琥珀色の瞳に涙を溜めて、妙にげっそりした表情で自分の喉を押さえる。 男の手には大きなもこもことした毛玉の塊が握られていた。どうやらこれを吐き出すために苦しそうな咳をしていたらしい。 「ほんっと、あくびもゆっくりできねえんだから。…ま、こればっかりは仕方ないけど、欲を言うなら他の種族に生まれたかったよ」 呆れたように男はつぶやいた。
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