2人が本棚に入れています
本棚に追加
その本屋の店主には、羊の角が生えていた。
客が入らず、暇を持て余しているのだろう。
けだるそうに本のページをめくっているが、あまり楽しそうには見えない。
ムスッとした仏頂面で読んでいるからだろう。
それに、この羊男の仏頂面といったら「具合悪い?」「怒ってる?」などと聞きたくなるほどのものだった。
きっと、それだから客も入らないのだ。
羊男は急に読んでいた本を閉じると、
「ヒマ…」
とぽつり呟いた。
それはそうだ。どう見たって開店休業のような状況。
閑古鳥が鳴く声がする。
羊男はぎゅっと眉根を寄せて、あくびをした。
そのとたん、げほげほと盛大に咳き込む。
何事かと思うほど咳き込んで、ようやく男は顔を上げた。
琥珀色の瞳に涙を溜めて、妙にげっそりした表情で自分の喉を押さえる。
男の手には大きなもこもことした毛玉の塊が握られていた。どうやらこれを吐き出すために苦しそうな咳をしていたらしい。
「ほんっと、あくびもゆっくりできねえんだから。…ま、こればっかりは仕方ないけど、欲を言うなら他の種族に生まれたかったよ」
呆れたように男はつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!