prologue

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 月がいつも以上に輝く夜のこと。月明かりの元、少し古さの残る屋敷のベランダで、青年と言うにはまだ幼いくらいの少年が一人佇んでいた。 「何をしているんだい」  しばらくした時、ガラス張りの扉を開け、屋敷の中から長髪の青年が現れて少年に問いかけた。少年は振り返らない。 「月を見ているんだ。今日は一段と綺麗だからね」 「ああ……そうだね、確かに綺麗だ」  妖しいぐらいに。青年はそう言いかけて、言葉を止めた。 「けど、珍しいね。俺からしたら、君は月を眺めて感傷に浸るような人には見えないんだけど」 「……前々から思ってたけど、君は時々失礼極まりない発言をするね」  振り向いた少年は不機嫌そうにしていた。そしてもう一度月を見る。蒼白く輝く月は、美しさの中にどこか不気味な雰囲気すら漂わせていた。  空を見上げた青年は、ふと妙な寒気を感じる。 「さて、あまり外にいると体を冷やすよ?マスター」  パンと手を叩いて、青年は中に入るように促す。 「全く、君はどうしてこう僕を子供扱いするかな」 「気に障ったかい?」 「いや、別に」  マスターと呼ばれた少年は、肩を竦めてベランダの手すりから離れる。屋敷の方へ歩み寄る度に、かつかつと靴の底が鳴る。  何を思ったか、青年の真横で少年がピタリと止まった。 「月の光は妖しく輝き、大地の魔力はざわついている……何かありそうだよ」 「何か、と言うと?」 「さあ? 僕は予言者じゃないからねぇ。これはただの予感」  少年は手を振って身を翻し、じゃあねと自室に戻っていく。その背中を見て、青年も長い髪を翻してすぐに自室に戻っていく。だから、少年が呟いた言葉を青年が聞くことはなかった。 「本当に今日は月が綺麗だ。ねえ、――……?」
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