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木々が生い茂る森の中に、少女――都築七海が横たわっている。ぼんやりとする意識の中、視界に映る深緑を見つめる。ああ、ここは森の中だ。
いや待て。……森? と、七海は、目覚めたばかりの頭でもすぐにおかしいことに気付いた。飛び起きて周りを見渡す。
「え?」
七海の声は、森の中に消えていく。そこで何を思ったのか、彼女は突然自分の頬をつねって痛みに顔をしかめた。随分と古典的ではあるが、これが現実であることは分かった。それでも、何故自分がここにいるのかまでは分からない。
突然吹いた風で木々がざわめいた。
「ど、どうしよ……」
オロオロと、七海は目に見えて狼狽している。目覚めたらそこが森だったという状況なら、誰しもがそうなるだろう。記憶が曖昧になっているが、登校中だったのは確かだ。誰かが連れてきたと仮定するにも、周りに人がいたその状況で自分連れ去るのは難しいはず。
(何がどうなってるの? 訳分かんないよ……)
とにかく、こんな所にずっといる訳にはいかない。幸いにも、今朝持っていたスクールバッグは無事。倒れていた場所も、道のすぐ側だった。これなら、道なりに歩けばどこかにたどり着けるかもしれない。看板でもあればとは思ったが、贅沢は言っていられない。
「よしっ」
一人決意をして、七海は一本道を東に進み始めた。
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