サンタクロースは居ない?

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「ねえ、ママ。サンタクロースはね。ほんとはパパなんだって」 「えっ? 誰が、そんなこと言ったの?」 その会話は、僕の背後から聞こえた。 その親子連れは、同じアパートの住人だった。 と言っても通路で顔を合わせた時に、挨拶を交わすだけの間柄だが。 「しょうた、だよ」 「保育園の?」 「うん……。サンタさんじゃなくてパパがプレゼントをくれるんだって。ねえ、ママ。うちはパパがいないからプレゼントはもらえないの?」 母親は返答に詰まっている。 僕は駅前のバス停に、その親子連れと偶然に並んでいた。クリスマスイブは明日だ。 「ねえ、ママ」 男の子が母親の袖を引いている。 「タッくん、サンタさんはね……」 僕は文庫本を閉じた。 「あのね、その子のお父さんは、サンタクロースの当番だったんだと思うよ。サンタは一人じゃなくて、たくさん居るんだよ」 僕は自分でも思いがけない言葉を発していた。 「えっ? そうだったの?」 彼は、きょとんとした目で僕を見上げている。 「うん。タッくんは、何をお願いしたの?」 「アンパンマンのパソコン!」 彼は元気よく答えた。
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