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何故兄貴は手嵩の事を知っているのか気になって、手嵩の家まで行った。
「手嵩、お前は兄貴と会った事あんの?」
「あ、うん…。一回だけな。でも何でいきなり聞くんだ?」
「いや…今日さ、兄貴と久しぶりに会ったんだ。そしたら手嵩の事を知っててな」
「そっか…」
どうしたんだ? 落ち込むような声で。
「なぁ…各務先輩は元気か?」
「え? 元気だけど……兄貴と何かあったのか? 俺さ、知りたいけど」
真剣な眼差しで手嵩を見つめると、彼はため息を吐いて口を開く。
「……各務先輩の卒業式の日に、俺の所へ来たんだ」
「へぇ…」
「あの人は…悲しそうに笑ってたよ」
――え?
悲しそうに…。
「何て言うか、俺が知っている各務先輩じゃなかった。アレは本当の各務先輩に見えたんだ」
兄貴はずっと笑っていると思ってたけど…違うのか?
俺と同じく苦しんでた?
今も、なのか?
別れる時に、俺を呼び止めてこう聞かれた事を思い出す。
『──千草。今は幸せか?』
……違う。
あの時の顔は幸せそうな顔だった。
彼をギュウッと抱きしめると、手嵩の顔が真っ赤になる。
「大丈夫。兄貴は大丈夫だ」
俺はそう応えたから。
『もちろん彼がいるからこそ、幸せだよ』
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