第2話 「さらばライバル! ボブよ永遠なれ!」

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 いくら自転車に乗っているとはいえ、子供たちをまくのは容易いことだった。公園を抜け、民家のレンガで出来た塀や、工事中のアスファルトを駆け抜ける。元バスケット選手は、複雑な地形や人の波に足止めされない。やがて人目の当たらない路地裏の通路で、ボブはようやく一息を付ける。 「はあっ……はあっ……」  ボブは軽く走っただけで、息切れを起こす自分の体に驚いた。いくら試合が終わり、数週間トレーニングを怠っただけで、こうも肉体が衰えるものなのか。  全盛期なら、酒やタバコを吸っても力が漲る錯覚まであったというのに(無論、トレーナーに止められてから更に勝率が上がったが)。ほんの数年で、こんなに変わるものかと戦慄を覚える。 (自分は、もう限界なのかもしれない)  それを痛感させられた試合だった。一時は相手を追い詰めたものの、原因不明の逆転であっさりと倒される。何が一番ショックだったかといえば、あれ程頼りにしていた『ボブ術』が機能しなかった事だろう。  ボブが両腕を天井に突き出し、熊の様なポーズを取る。バスケットの経験を生かしたこの戦闘スタイルは、ずばり「防御」の型であった。長身を生かし、相手を見下ろす事で、あらゆる攻撃を「確認」後、しかるべき防御や反撃へと移る。だが……。 (あの男は、私の事など眼中に無かった)  試合での三十郎は、ボブを見るなり勝手に恐怖し、一切手出しをしてこなかったと思いきや勝手に立ち直り、『ボブ術』を無視して殴りかかり、力付くでKOしてしまった。  つまりは、『ボブ術』はまるで関係なく、三十郎が一人相撲をとった挙げ句、実力で勝ったのである。 (ないわー、マジでないわー) 「ないわー、マジでないわー」  ボブの心と誰かの声が一致する。慌ててボブが振り返ると、公園でまいたはずの、あの少女の姿があった。
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