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「君は!?」
「本当にダメね。試合で負けてからそこまで落ちぶれるものかしら……」
少女はやや呆れる様に言って、カバンの中からDVDケースを取り出す。見覚えのある表紙に、ボブはまたも驚いた。
「それは……」
「そう、『ボブさんのハイパーバスケットテクニック 序ノ口』あなたが昔出していたDVDよ」
それは、ボブがまだ格闘技を始める前、バスケット選手として活躍していた頃、周りにそそのかされる形でつい出してしまった、バスケットボールのトレーニングビデオだった。
中身と言えばスポンサーの意向で、シリーズを大量生産するためにやけに間延びした展開だったり(『序の口』はバスケ道具一式を揃える所で終わる)、挙げ句にバスケットボールが1ミリも関係ない『ボブ体操』『ボブ音頭』『ボブルンバ』といった、無理やりレコーディングされたイメージソングと、それらミュージッククリップが入っていた。
ついでに言えば、もう世間はすっかりブルーレイディスクに移行していたのに、プロデューサーがマーケティングを見誤り、DVDで大量生産した挙げ句、そのまま不良在庫と化してしまった、いわく付きの一品であった。
「ひとっつ、ボブより、ちっかっらもっち~」
「ああ! それは『あっぱれボブ日和』止めてくれ! それは歌詞とかメロディがギリギリなんだ!」
気持ち良く歌いだす少女に、ボブは慌てて止める様に懇願する。
「……ま、冗談はさておき、こんなDVDを見て、素人の付け焼き刃で追い詰められちゃうぐらい、疲れ果てちゃったのね」
少女の言葉にボブは目を見開いた。自分がバスケットで培った動きを、全て逃走へと費やし、彼女はそんな自分に追い付いた。しかも当時誰も歌わなかった自分のイメージソングを、彼女はそらで歌ってみせた。
「まさか……君は……」
「……そうよ。ファンだった。格闘技を始める前から……」
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