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「見ろ! 最高レベルのセキュリティが!」
警備員の誰かが指差して叫んだ。見れば厳重な装置に付いていたメーターが、音を立ててその上限値に達すると、豪勢なファンファーレと共に、機械に埋めこめられた透明なケースがごとりと落ちた。
「薬が……これで……」
「バカーっ!」
場に似付かわしくない、金切り声が部屋を包む。振り向けば戸斗中が命を投げうってでも助けだそうとした、彩香・キボンヌの姿があった。唖然とする周囲をよそに、彼女は戸斗中に向かって一直線に歩いていく。
「お嬢様……っ!」
戸斗中の言葉は彼女の平手打ちに遮られた。か細い少女の手の平からは、肉体のダメージよりも深い痛みを戸斗中に与える。
「本当にバカね! 何でこんなムチャをするかしら? ライバル会社に単身侵入するとか……命知らずにも程があるわ!」
そういう彼女を見てみると普段着であり、護衛らしき人間も一人もいない。そんな彼女がどうやってここまで辿り着いたのか、戸斗中はまたしても彩香に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
「ですが、俺はお嬢様を……それよりどうして? 何で俺なんかの為にお嬢様自ら……」
「そ……それは……」
顔を赤らめる彩香に、周囲からは口笛や「オーッ」といった祝福の声が飛び交う。その光景にボブは微笑を浮かべた。
(やれやれ、お前は大したナイトだよタナカ)
そして、ボブは誰も気に留めようとしない透明なケースを拾うと、ある事に気付いた。
「……なあ、誰かこのケースの開け方を知らないか?」
ボブの言葉に、周囲は一斉に沈黙した。やがて科学者と思しい老人が前へと出た。
「それは、我がクロート製薬が誇る、象が踏んでも壊れないプラスチック。どんな衝撃でも破る事は出来ない……」
「どんな衝撃でも? ほう、その言葉後悔するなよ?」
ボブはニヤリと笑うと、おもむろにケースを地面に叩きつけ、跳ね返った所をキャッチする。それを繰り返し、どんどん加速していく。
「あれは……」
「そうだお嬢さん。これが私のハイパーテクニック『高速ドリブル』だ!」
そしてケースにヒビが入ると、やがて大きな音と共にケースは割れ、中のカプセルをボブが取ると、彩香に手渡した。
「ありがとう。俺はもう大丈夫。もう一度やれるって事を君に証明してみせよう」
「それじゃ……」
「ああ、引退は止めだ!」
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