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「おかえりなさいスーパースター!」
ここは有明、格闘技の聖地「東京ビッグファイト」。スター選手の思わぬ復帰に、会場のボルテージは否応なしに上がっていく。
「君のいない数週間、ビッグファイトは『三十郎』というよそ者にすっかり荒らされてしまった!」
会場のスクリーンには、三十郎がゴミを散らかしたり、リング上で携帯ゲーム機などを遊ぶ様を撮影した動画が映し出され、観客からのブーイングが飛び交う。
「ちょっと三十郎! あれは何なんでヤンスか!?」
コーナーで待機する三十郎のズボンの裾を、セコンドの二十九郎が慌てて引っ張る。
「ああ、何か金もらってやらされたんだが」
「ムキー! ただでさえ敵が多いのに、より反感買ってどーするでヤンスか!?」
三十郎は今や時の人である。素性不明にして、ボブをあっさりと破った実力者でありながら、その奔放したライフスタイルに、格闘技ファンは全員一致で「こいつは一体何なんだ?」という感情を抱いていた。
そんな四面楚歌の三十郎に、ボブがリベンジ戦を挑む、まさに世紀の一戦が始まろうとしていた。
「ああっ! あのコスチュームは!?」
会場が騒然となる。ボブの服装はいつものハーフパンツではなく、バスケット選手のユニフォームそのものだったからだ。彼は軽快にドリブルをしながら、駆け抜けるようにリングインする。三十郎がニヤニヤと笑っていた。
「おいおい、ここはコートじゃないぜ」
「私は、私らしさを忘れていた。もう『格闘家』なんて気取るのは止めだ」
ボブは手にしたバスケットボールを、セコンドのジョージにパスする。そして会場のアリーナ席にいた彩香と戸斗中を見つけ、人知れずウィンクを送ってみせた。
「試合前の会見では『原点回帰』と語っていたボブ、彼はバスケ時代の経験を武器に、三十郎とどう戦うのか!?」
試合開始のゴングが鳴ると、先に動いたのはボブだった。
「ジョージ!」
「ヘイ! ボブ!」
ボブはジョージから投げられたボールを手に取り、三十郎に目がけて投げ付けた。会場は一瞬にして気まずい沈黙に包まれ、ボールを受け損ねた三十郎は小さく「痛っ」と呟いた。
「武器による攻撃は反則だ! ボブ選手失格!」
レフェリーがすかさずジャッジを下す。そして何が起きたか分からないボブを、スタッフが速やかに連れ出した。
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