SUPER FIGHTING SPIRITS『拳三十郎』

第１話 「出た！ 必殺のダブルパンチ そいつは拳三十郎」

　ここは有明、格闘技の聖地「東京ビッグファイト」。丁度「東京ビッグサイト」と隣り合わせのこの建物は、より高度な戦いを欲する人々のため、全国に作られたどの闘技場よりも立派な、ええ、そりゃあ立派な建物でありました。

　そして今日もまた、全国の格闘技ファンがチケットを握り締め、最高の試合み楽しみに、ここビッグファイトへ訪れるのである。

「会場へ御覧の皆様、本日は誠（まこと）に、真（まこと）に、麻琴（まこと）にありがとうございます！」

　アナウンスが会場に響き渡ると、観客はより歓声を張り上げる。中にはその意味を分かってない人もいるが、「ありがとう」と言われたら、人は歓声を返すものなのだ。

「さて、本日のメインイベント『ボブ・サムトムジム』選手対『イワン・コッチャナイ』選手の試合を、間もなく開始します！」

　そうは言っても、ゲームに読み込み時間がある様に、物事には下準備や段取りがある。スタッフがイワン選手の下へ入場を告げようと、彼がいるドアをノックした。

「イワン選手！　イワン選手！」

　イワンはその大声と、必要以上にやかましく叩きつけられたドアのノック音に怪訝な表情を浮かべる。

「聞こえるって……」
「イワン選手！　イワン選手！　もしかしてトイレですか！？　事件ですか事故ですか！？」

　イワンの声はスタッフの声にかき消される。やがてイワンは歯を食い縛り、眉間に皺を寄せると、拳を握り締めて騒音の下へズカズカと歩きだす。「扉を開けて無礼者をぶん殴る」そう決めた時だった。

「イワン選手！」

　ドアノブに手をかけようとした瞬間、急にドアが外れたかと思うと、鉄の塊は勢いをもってイワンの頭を強打、彼を一瞬にして気絶させてしまった。

「イワンせん……あーあ、ドアにぶつかったぐらいで気絶してやんの」

　スタッフは倒れたイワンに意識がないか確認する。瞳孔を開き、鼻毛を一本引き抜き、ダメ押しで股間にワンパンを入れ、調子に乗って蹴りも一撃。それでもイワンは語らない（語れない）。

「……まあいいや。手順が変わっちまったが、結果オーライよ」

　スタッフはイワンを担ぎあげると、歓声わく会場へと歩みだした。