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「おーっと! 三十郎選手、先程の威勢の良さはどこへやら。ボブ選手の猛攻になすがまま、きゅうりがパパです!」
状況一転、三十郎は防戦一方へと追いやられる。何とか距離を離し、両腕を上げて賢明に突きや蹴りをガードする。
(くっそ、見た目にただの打撃にしか見えないが……)
三十郎とてやられっ放しは面白くない。何度か反撃に転じようとしたが、ボブの威圧感に負け、技の威力がことごとく半減していた。この感情が一体何なのか、今の三十郎には理解出来ない。
(ダメだ……オレは小難しいのは苦手だ。だから力任せに全部ねじ伏せてきたのに……)
ボブの蹴りが、三十郎の腹に食い込み、激痛を伴う「高い高い」へと繋ぐ。蹴りあげる、空を飛ぶ、足で落下から受け止める、ゲロを吐く。
「おっと、三十郎選手の口から炭酸です! カニさんのブクブクです! こりゃあ深刻なダメージです!」
ボブの快進撃に会場が沸く中、たった一人、焦心に身を焼かれそうな思いでいるのは、角砂糖を貪り続ける二十九郎である。
(どうしてこうなった!? パワーは明らかに三十郎の方が上でヤンス。三十郎は外国人でもなければ、あんなに怖じ気付いたりなんか……)
「外国人」という単語に、二十九郎は正気に返った。
(まさか……)
二十九郎は携帯電話を取り出すと、砂糖まみれの指を振りかざし、怒濤の勢いでキーを打ち込みはじめる。
「何でえ、あの三十郎ってやつ、てんでダメじゃねえか!」
会場の爆笑に気を取られると、ボブはまるでリフティングのごとく、三十郎を頭突きや蹴りでお手玉状態にしていた。一見CGかと見違えてしまう程の芸術的な技は、やがて周囲を感動の波へと巻き込む。
「ブラボー! ブゥラ・ボー!」
会場総立ちの拍手喝采。いつの間にかその輪の中に二十九郎の姿もあった。
危うし三十郎! 彼の戦いの日々はここで幕を閉じてしまうのか!?
君は、こんな所で倒れてしまうような男だったのか!?
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