第1話 「出た! 必殺のダブルパンチ そいつは拳三十郎」

7/8
前へ
/45ページ
次へ
「圧倒的ですボブ選手! それもそのはず、彼には負けられない、不屈の覚悟があるのです!」  実況が一際大声を張り上げると、会場の照明がじょじょに暗くなり、繊細なピアノの音楽が流れだした。見れば大型スクリーンにセピア調で写真が流れていく。 (なにこれ?)  三十郎は倒れたまま、唖然となっていた。 「ボブ・サムトムジム選手、本名は川崎二十郎。彼の父親はかの『拳三十郎』でありますが、物心付いたとき、父親は既に姿を消した後でした」  写真が次々と切り替わる。母親の背におぶられるボブ、犬に追い掛けられるボブ、小学校に入学し、校門の前の桜吹雪にさらされるボブ。写真を重ねるごとに、彼の体格は不自然なまでに立派になっていく。 「女手一つで育てられたボブ選手は、やがて格闘技に関心を持ちはじめると、瞬く間にその才能を開花させました」  次に、学生時代のボブの試合映像が流れる。柔道に空手、ボクシングにバスケットなど、あらゆる試合でボブの活躍するシーンばかりが映される。 「そしてボブ選手は、日に焼けた肌とハリウッドスター顔負けの濃厚な顔立ちを生かし、川崎二十郎の名を捨てて、最強の格闘家『ボブ・サムトムジム』を名乗りだしたのです」  そしてボブ選手にスポットライトが浴びせられると、盛大なファンファーレと共に、リングの四隅から花火が打ち上げられた。 「ちなみに花火って言っても近未来なので、室内でも火事にならない安全なタイプでヤンスよ。科学の進歩って素晴らしいでヤンスね」  感動的なムードに包まれる中、三十郎がゆらゆらと立ち上がると、場内は騒然となる。ボブも動揺していた。 「あれほどの攻撃を受けて、まだ立てるのか!?」 「へっ、何か結婚式のスライドショーみてえな間に、十分体力回復出来たぜ」  見れば、三十郎の体には絆創膏やら包帯が巻かれており、ついでに彼の足元には食い散らかしたおかしやジュースまであった。 「抜け目のない奴め……私の『ボブ術』で今度こそジ・エンドです!」 「ああ、その『ボブ術』ってのはよく分からんが、お前にはもう勝ち目はないね」 「なに!?」  三十郎は素早く間合いを詰めると、渾身の力で両の拳を突き出す。 「父が日本人、母も日本人、お前正真正銘の日本人じゃねえか!」  三十郎の『ダブルパンチ』がボブの腹部に突き刺さると、彼は後方に突き飛ばされた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加