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「圧倒的ですボブ選手! それもそのはず、彼には負けられない、不屈の覚悟があるのです!」
実況が一際大声を張り上げると、会場の照明がじょじょに暗くなり、繊細なピアノの音楽が流れだした。見れば大型スクリーンにセピア調で写真が流れていく。
(なにこれ?)
三十郎は倒れたまま、唖然となっていた。
「ボブ・サムトムジム選手、本名は川崎二十郎。彼の父親はかの『拳三十郎』でありますが、物心付いたとき、父親は既に姿を消した後でした」
写真が次々と切り替わる。母親の背におぶられるボブ、犬に追い掛けられるボブ、小学校に入学し、校門の前の桜吹雪にさらされるボブ。写真を重ねるごとに、彼の体格は不自然なまでに立派になっていく。
「女手一つで育てられたボブ選手は、やがて格闘技に関心を持ちはじめると、瞬く間にその才能を開花させました」
次に、学生時代のボブの試合映像が流れる。柔道に空手、ボクシングにバスケットなど、あらゆる試合でボブの活躍するシーンばかりが映される。
「そしてボブ選手は、日に焼けた肌とハリウッドスター顔負けの濃厚な顔立ちを生かし、川崎二十郎の名を捨てて、最強の格闘家『ボブ・サムトムジム』を名乗りだしたのです」
そしてボブ選手にスポットライトが浴びせられると、盛大なファンファーレと共に、リングの四隅から花火が打ち上げられた。
「ちなみに花火って言っても近未来なので、室内でも火事にならない安全なタイプでヤンスよ。科学の進歩って素晴らしいでヤンスね」
感動的なムードに包まれる中、三十郎がゆらゆらと立ち上がると、場内は騒然となる。ボブも動揺していた。
「あれほどの攻撃を受けて、まだ立てるのか!?」
「へっ、何か結婚式のスライドショーみてえな間に、十分体力回復出来たぜ」
見れば、三十郎の体には絆創膏やら包帯が巻かれており、ついでに彼の足元には食い散らかしたおかしやジュースまであった。
「抜け目のない奴め……私の『ボブ術』で今度こそジ・エンドです!」
「ああ、その『ボブ術』ってのはよく分からんが、お前にはもう勝ち目はないね」
「なに!?」
三十郎は素早く間合いを詰めると、渾身の力で両の拳を突き出す。
「父が日本人、母も日本人、お前正真正銘の日本人じゃねえか!」
三十郎の『ダブルパンチ』がボブの腹部に突き刺さると、彼は後方に突き飛ばされた。
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