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いきり立つ二人に、鷹丸は凄みのある笑みを浮かべて雪玉を構えた。
「一回、その性根を叩き直す必要があるな」
低くつぶやき、鷹丸は涼都に優しく笑いかけた。
「涼都様は柱の影にでも隠れていて下さい──今からゴミを掃除しますので」
「…………うん」
目が、笑っていない。
涼都はトウイチロウの腕から逃げて、即座に柱に隠れた。
「上等だ、てめぇ」
「雪まみれにしてやるよ」
かくして、戦国時代のような鬼気迫る、遊びではない雪合戦が始まった。
「…………」
「なにをやっているんだ、あいつらは」
涼都の心を代弁するように、冷ややかにつぶやいた声。
顔を上げると、そこには涼都の後見人であり、天城家の当主である正獅郎がいた。
馬鹿馬鹿しいといわんばかりに眉を寄せ、心底呆れたように三人の幹部を見ている。
雪に氷を混ぜて投げ合い戦う様は、まるで戦闘のようだ。が、やっていることは雪合戦だ。
馬鹿馬鹿しいと正獅郎が呆れるのもわかる。
けれど。
(……失いたくないな)
眩しいものでも見るように、涼都は目を細めた。
この日常が、馬鹿馬鹿しいほどに儚いものだと、知っている。
この温もりが、明日には失われるかもしれないことも、知っている。
──涼都のせいで。
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