snow doll

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「どうぞ」  そういったはずの僕の言葉は届いていなかったのかと気になって、僕からドアを開けてみる。  ぜーぜー言ってるしらべの呼吸に、ヒューヒューと言う音が混じっているのを聞きつけて、内心焦りながら、僕はしらべをゆっくり中に入れた。  さすがに何度か言い聞かせたせいか、僕が多少怒ったような声色を出しても、しらべは怯えないようになっている。  僕が、教育実習に行った頃。  しらべは常に一人だった。  いつ見ても、一人でぽつんとそこにいて、見えないシールドを張り巡らし、自分の世界で覆うことで、周囲を見ないふりをし、自分自身を守っていた。  最初は、そう。  僕は、教育をする立場のものとして、しらべを放っておけない。  そんな気持ちで、しらべに近づいたのも事実。  あまりにも、見ていて痛々しかった。  最初は話しかけても、会話はなかなか成立しなかった。しらべは下を向き、ひたすら僕から離れようとしていた。  それこそ、僕は必死になって、しまいにはどうしてしらべにこんなに近づいたのか、それすら自分で思い出せなくなるぐらいだった。  しらべの口から、しらべの言葉で、しらべの思いを聞きたくなった。しらべの世界に、僕という存在を認めて貰うのに必死だった。そんな僕に、ある日しらべが呟くように言った。 「井ノ瀬先生ってお兄ちゃんみたい……」  それを聞いて、僕はどきっとした。  しらべにとって僕はお兄ちゃんだけど、僕にとってしらべは何だろう……。  その答えを導き出すにはは、数年の月日を要した。  そして今、しらべは僕とよく日々を共にする。
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