place

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 樹さんは、私を抱えるように店内に招き入れると、ふかふかの大きめの毛布を持ってきて、私の荷物をそっと自分で持って、毛布で私をくるむ。 「もう……ゆっくり来ても、お店は逃げないから……。  ここに座って」  言われた場所は、このお店の特等席。 暖炉の真ん前にある、普段はオブジェだけど、お店が休みの時とか、お店が終わった時に、樹さんが座ってる、ロッキングチェア。 ここで、本を読みながら、紅茶を飲んでる樹さんを、 私は何度も見たことあった。 「え……ここ、座っていいの……?」  そう聞いた私に、樹さんが笑って聞く。 「椅子に、見えない?椅子は座るためのものだよ?」  そう言われて、私はちょこんとその椅子に腰をかける。  すうっと、椅子が前に沈み込んで、ゆっくりたゆたう。  ぱちっ。  暖炉の中の火がはぜる。 「今、紅茶を入れてくるからね」  そう言って、樹さんはカウンターの中へ。  最初は体が冷たくて、燃えるように熱く感じた暖炉の火は、だんだんと、あたたかく、私の気持ちまでとろけさせる。  私は、樹さんが紅茶を入れてくれている、  食器がかちゃかちゃなる音を聞きながら、  揺られる椅子とあたたかさに、  だんだん、意識が揺らいでいった……。
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