第一章 ミルン・セティア

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「では、預かりますね」 魔女のエンジニアが自分の両腕を持っていくのを見送ったルミンは、与えられた個室の待機部屋の椅子に腰を下ろす。 替えの腕を貰えるのだが、ルミンはそれを断った。 人体工学に基づいた椅子はこちらを柔らかく受け止めてくれる。 ここに来ると、いつも思い出す。 あの日の事を。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ルミン・セティアはもとは裏の人格だった。 いや、そもそもルミンとミルンの間に裏表は無く、ただミルンの方が対人関係を築きやすかった為表に良く出ていただけだ。 彼女達の記憶にある最も古いものは孤児院での生活。 捨てられていたのを孤児院の職員が拾ってくれたと後から聞いた。 基本的に良い雰囲気の孤児院だったが、ミルンは馴染めなかった。 複数人格故に周りの子供が怖がり、苛めてきたからだ。 孤児院の大人はメルティオ人らしい思考、いかなるものでも悪意がなければ拒まないという思考の持ち主だったが、子供はそうはいかない。 いくら注意しようが、自分達と違うルミンとミルンを仲間はずれにして、決して仲間に入れなかった。 成長して、国立学校に入学した後はそのクラスからも仲間はずれにされる。 一度、靴を隠そうとしているグループを見つけた時、表に出ることが殆ど無かったルミンが、鬼の形相で男子に掴みかかり鉄拳制裁した為に陰湿な苛めは無くなった。
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