大切

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 ――深夜2時頃、都内○×区の公園で女性の遺体が発見されました。女性は山内楓さん23歳、楓さんは今年春から某有名ブランドのショップで働いており、職場でも明るく元気な方だと評判でした。警察の発表によると発見時楓さんは衣服をまとっておらず、暴行を受けたあと公園に放置されたのだろうと推測されています。また、楓さんの手には鋭い木の枝が握られており、暴行を受けたショックによる自殺の可能性も見受けられ、遺族の方は怒りに震え犯人捜索を強く訴え――プツッ 「あ」 「朝から嫌なニュースだな、お前は気を付けろよ」  近所で起きた事件だった。  だからあと一口分だけの白米を残した茶碗を片手に思わず箸を止めテレビのニュース聞き入っていたんだけど、リモコンの電源ボタンを押した兄により強制終了、テレビの画面が真っ黒になった。  思わず声をもらした私に、兄は素知らぬ顔で自分が食べ終えた分の食器を持って立ち上がり、片付けながら注意を促す。   「ほら、遅刻すんだろ。手止めてないでとっとと食えよ」 「……」 「なんだよ」  兄は自分を凝視する私を不思議に思ったのか、ほとんど残っていない眉毛を寄せ首を傾げる。  学ランの下にパーカーを羽織り、ズボンは腰まで下げ指定外のベルト、右耳に三ヶ所左耳に二ヶ所ピアスをつけ、ブラウンに染めあげた髪のサイドを刈り上げ、よくわからない梵字のタトゥーを首筋にいれている。 「……何でもないよ」    相変わらず、兄弟じゃなきゃ関わりたくない格好してるなあ……と思ったけれど口にはせず、残り一口のごはんを口に入れ私も食器を集め立ち上がる。 「犯人捕まってねえらしいからな、本当気を付けろよ」 「うん」  兄がその容姿や言動、行動により周囲からどう思われているかはよくわからない。 「お兄ちゃん、今日もバイトなの?」 「おう」 「そっか、頑張ってね」  けれど、共働きの両親の代わりに兄は過保護なくらい私にとても良くしてくれるし、私は兄が“普通に”好きだ。
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