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兄は二年生で、私は一年生。
生活指導の教師陣からは制服の着用の仕方について問題兄妹とされているけれど、私の場合は本当にそれだけだし、至って真面目。
まあ、兄も学校では遅刻の回数が多いこととたまに授業をさぼるくらいで、そこまで問題を起こしたことはない。
水島高校では遅刻が一ヶ月で五回を越えると二週間の間放課後体育教官室に呼び出され、説教をくらう。だから兄は一年生の頃に受けた指導が原因で、ヤマセンを筆頭に体育教師陣に顔を覚えられている。ついでに妹の私の顔も覚えられているらしい。
でも私が入学してから兄の遅刻はかなり減ったらしいから、一部の教師陣から感謝されたこともあった。
……別に、私は兄を追いかけて水島高校に入学したわけではない。
中学生の頃の学力がいたって平凡だった私は、兄と同じく“近いから”というよくある単純な理由でこの学校を選んだ。ただそれだけ。
ただ私が入学してからお互い何を言い合ったわけでもなく自然と二人で毎朝一緒に登校するようになったとき、同学年の生徒たちの間では兄が私の彼氏、兄の学年の生徒たちからは私は兄の彼女だと噂されていたらしい。
まあ確かに兄妹で登校する人たちなんて滅多にいないし、この学校じゃ私たちくらいかもしれない。
悪目立ちする兄の隣を歩くのは最初は抵抗があったけれど、だからといってドラマやマンガのように妹の私が苛められたり憧れられたり、怯えられたりするようなことは特にないし、兄妹の関係が周知のこととなっている今となっては、学校の人間だけでなく私自身も二人で登校することが“当たり前”になりつつある。
(だから、さっきは焦った)
兄に一緒に行きたくないと言わせるほど何か怒らせるようなことしちゃったのかな、と。
下駄箱で上履きに履き替え終えると、仕舞っていたカーディガンを取り出して、私は制服を“元に”戻していく。
悪ぶりたいわけじゃなくて、ただこっちの着方の方が可愛いと思うから、怒られても怒られても直してしまう。
それに、私のように下駄箱で制服を着崩している人は少なくないし、いいよね。
なーんて、自分勝手に自己完結しながら教室へと足を進める。
交わされる挨拶、鳴り響く鐘の音、椅子の足が引きずられる音、笑い声、ドアを開ける音。
今日も、一日が始まる。
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