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薄暗い森に剣戟が響く。
月光とは別に、火花が舞い散る。
紅い刀身の刀が、紅く閃きのような剣戟を繰り出しては、赤と白の軍服に身を包む兵士の鈍色の剣を中程からへし折る。振り抜いた刀をバネのように跳ね戻して兵士の脇腹を深く抉る。
兵士の着用する鉄の胸当ては、断末魔の軋みをあげてヒビ割れた。目元の隠れるヘルメットからは表情が読み取り難いが、苦悶しているに違わない。ぐわぁ……と悶絶し、倒れる兵士を一瞥し、踵を返すアカツキ。
アカツキは女性にしては長身で、黄金色の髪を藤色のリボンで一傍に結う。腰まで伸びるそれは、尻尾のように揺れる。化粧気はなくとも肌は雪のように白い。切れ長の眼から覗く翡翠色の双眸は澄んだように美しい。
印象を《紅》と思わせるのは刀に限らず、それに合わせたかのような真紅のロングコート。袖を通しただけでボタンを締めないそこから見える大きな乳房は、黒いニットシャツに締め付けられて苦しそう。黒いズボンは美脚線をハッキリと浮かび上がらせている。
荒い息使いで「くそっ……」と悪態を吐き付けるのは己に対してだ。
護衛という任務を受けてこの場にいるアカツキだが、どうしても出来ないのが――人を斬るという行為。先程の兵士も峰打ちで倒し、苦しそうに咳き込んでいる声がハッキリと耳に届いていた。
アカツキは両の瞼をギュッと閉め、大きく頭を左右に振る。甘さと迷いを振り払ったように眼を開き、側で佇んでいる雇い主の手を握り、走り出した。
後方からバリバリと凍った雪を踏み潰す足音が幾つも聞こえてくる。
「しつこいね……何人連れてきてんだい、全く……」
各国から暗殺・間諜活動・破壊活動が主な仕事として生業にしている忍集団。決して世界の表舞台には登場はしない、裏世界で暗躍する二大組織が一つ、オズの里。
世界中でも、その存在を知り、連絡手段を持つ者は、王族・貴族。世界で地位の高い者達しかいない。
アカツキは俗にくのいちと呼ばれる存在にあたり、雇い主――イリーナは、ラスタシア王国の姫君だ。
イリーナは女性の平均的な身長で、はらりと下ろす朱色の髪はセミロング。一目で高級品だと察せる白のニットにファーをあしらった洋服に身を包み、濃紺のミニスカートから伸びる足は疲弊し、痙攣している。
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