曖昧な記憶とその拳

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いつの間にか、 「あたしは必要ないみたいだね。」 と、無理やり笑顔を作って部屋を飛び出していた。 デスクに戻り、傍にあったカフェラテを一気に飲み干す。 その様子を見て、 「お疲れの様ね。」 あきれ顔の加奈子。 「あの依頼でしょ?娘を一人で泊めるから世話してっていう。」 「そうよ!!」 「しーっ。」 大きな声を出して、ましてや立ち上がってしまったあたしを加奈子が急いで座らせる。 「奏、世話すんの下手くそだもんね。六年の時も一年生に好かれてなかったじゃん。表情が硬いからじゃない?」 「そうかな?」 表情が硬い。色んな人から何度も言われた言葉だった。仕事中は営業スマイルばっかりで本当の笑顔は自分がおもしろいと思った時しか出ない。普通の人ならそれが当然だけど。 あたしの仕事はコンシェルジュな訳で、笑顔に区別があってはならない。
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