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〝豊穣の祭〟で言うのなら秋の始まりの黄昏刻――つまりこの夕日が完全に没してしまえば、〝正典〟は翌日まで睡眠期間に入ってしまうのだ。
「だったら尚更だ。今日の内に〝正典〟を確かめられるなら、さっさと片付けちまおうぜ。
パンケーキと蜂蜜は、それからでも遅くないだろ」
「それはそうですけど……」
未だ名残惜しそうに瞳を潤ませているベルに、リントは淡いため息を吐いた。
「おら、行くぞ。お前がいないと話にならねえんだからな」
「うぐぅ……」
呆れたように言ってベルの頭を軽くはたいてやると、ようやく観念した彼女はリントに並んで歩き出す。
後ろ髪を引かれる思いなのだろう。なにかを堪えるような表情でベルは下唇をぎゅっと噛み締めている。
しばらく俯き気味に歩いていた彼女は、やがて気を取り直したように顔を上げて、
「なんだかリントさん、凄くはりきってますね?」
「当たり前だろ」
訊いてくるベルに、リントは不機嫌そうに鼻を鳴らして、
「なんたって、〝正典〟には俺の人生がかかっているんだからな」
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