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二人が町の中心部にたどり着いたころには、既に〝祭〟の片付けは大方終わってしまっているようだった。
広場の中央に置かれた巨大な篝(かがり)からは火が消えており、木箱に詰め込まれた大量の楽器を、ガタイのいい男たちがどこかへ持ち運んでいく。
人の影もまばらで、やはり町民のほとんどは露店の方へ流れてしまっているのだろう。
「おや、見ない顔だな。余所者だろう、あんたら」
周囲をキョロキョロと見回している二人の様子に気づいて、パイプをくわえた初老の男性が話しかけてきた。訝しそうに眉を上げている。
太い松明を肩に何本も抱えた、小太りの男だった。
ベルは愛想よく微笑む。
「ええ、今しがた馬車で着いたばかりです。北方の都から参りました、T・ミューラー=フランベルと申します。こちらは――」
「俺はリント・スズオキです。〝豊穣の祭〟の噂を聞いて来ました」
頭を下げる彼らに、男性は少し驚いたように目を見開いた。
ふむ、と彼は唸ると、顎の髭をざらざらと撫でながら、リントの顔をジッと眺めてくる。
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