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ベルの穏やかな口調に、男は、ふむ、と品を定めるような目を彼女に向けて、
「フランベルさん、だったか。あんた学者――って歳じゃあないよな?」
「ええ、わたしはただの学生ですよ。
研究の題材として〝正典〟に興味を持った……まあ、学者の真似事をしているだけの小娘だと思ってください」
「じゃあ、こっちの異世界人の兄ちゃんは?」
「リントさんとは、都でたまたま出会ったんですよ。
女の細腕で馬車の操作は難しいですからね、困っているところを助けてもらったんです」
そう言う彼女に、鼻を鳴らしたのはリントだった。
彼は首を緩く振って、うんざりとした調子でベルの言葉を繋ぐ。
「こいつが学者の真似事なら、俺は助手の真似事みたいなものですよ。
俺はこの世界の勝手が分かりませんから。付いて回れる相方がいた方がなにかと助かる事が多い。まあ、利害の一致ってやつですかね」
「ふうん、なるほどなあ」
回答に満足がいったのだろうか、男性は顎に手を当ててにんまりと笑みを浮かべている。
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